墨を磨る

水を少し垂らして
ゆっくりと墨を滑らせて
ただ墨を磨っている時間
聞こえるのは自分の衣擦れと硯面と墨が擦れ合う音だけだ
何か考える訳でもなくただぼんやりとしてみる
ぼんやりするうちに何かを考えてしまう
本が読みたくなる
音楽が聞きたくなる
何か飲みたくなる
それでも墨を磨っている
そのうち時間が気になりだす
いつまで磨ろうかと考えてしまう
考え出すと止まらなくなる
例えば明日の予定が気になる
帰り道で何処かに寄ってみたくなる
寄り道できそうな場所を調べたくなる
店を調べたり買い物を思い出そうとしたり
何かをしようとしてしまう
ぼんやりするのもなかなか難しい
絶えず何かのために何かをしてしまっている
何かをするために何かを考えてしまっている
その一つ一つを振り払ってしまいたいと思ってみる
何のためでもないような行動とか時間とかそんなものを想像してみる
例えばあてもなく散歩するようなことを部屋の中で座ったままに実践してみるようなことを想定する
だがそれがその通りであると考えてしまった途端に逃げてしまうものだからなかなか実現できない
何も考えていないということをどうやったら判るのかという問題を想像してみると何のために使ったのか判らないけれど相当の時が経っていたというような体験なのかもしれない
そんなことを想像しながら墨を磨ってみるうちはまだまだかもしれない

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