硯を買う話

20代の頃、硯を買おうと思った。
それまで使っていた硯は、15cmぐらいの羅紋硯である。
普段使う分には充分なのだけれど、不注意で端を欠いてしまっていた。
その頃から二八の作品を書くことが多くなり、大きな硯が欲しくなって、端渓硯を買いたいと思った。
たぶん何か賞を貰って気が大きくなっていたのかもしれない。
それと今までの硯では、ちょっと墨池が小さいと思ったのかもしれない。
端渓硯には、ちょっと憧れがある。
端渓を知ったのは師匠から教えてもらったと言うのもあるけれど、夏目漱石の作品で読んでいた気がしている。
改めて検索してみるとどうやら「坊ちゃん」だったらしい。
ともあれ、ちょっと良い書道用品を買おうと思ったら、神田須田町の「清雅堂」に探しに行く。
装飾の凝ったものではなく、シンプルな大きなものが欲しかったので、お店の人に大きさを言ったら、ショーケースの上に幾つか並べてくれた。
まずは見た目で、見てくださいと言われる。
微妙な紋様の違い、色合い、それも硯を選ぶ重要なポイントだという。
深い茶色と小豆色の混じったような石肌、流れるような紋様があるといえばあるし、でもどれもあまり違いは無いように見える。
次に水を垂らしてもらい、指の腹で撫でてみて下さい、と言われる。
石の目の違いがあるという。
硯は墨を磨るものだから、どんなにすべすべに見えていても、目があって指の腹に引っかかるものがある。
明らかな違いは判らなかったが、何となくピンと来たものを買った。
硯を選べるほど目が肥えているわけでもない。
だが、この店が見方を教えてくれたのだった。
最近、行ってないので、たまには筆でも買いに行きたいと思っている。

神田須田町の清雅堂の紹介記事はコチラ

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