展覧会 岡本太郎

岡本太郎を最初に知ったのは、子供の頃に見た「グラスの底に顔があっても良いじゃないか」というCMだったんじゃないだろうか。
改めて調べたらキリンシーグラムが輸入販売していたロバートブラウンのノベルティだったらしい。
いつだったか思い出せないが、チャリティバザーか古道具屋で見つけて、今でも大切に使っている。
それから、マクセルの「芸術は爆発だ」というCM。
80'sの頃は、岡本太郎はよくメディアに出ていた記憶がある。
よくあるエキセントリックな著名人という位置づけで、発言や意図はあまり伝わっていなかったように思うし、先に挙げたCMもそんな方向性のように思う。

何年かぶりに今年は岡本太郎の大規模な回顧展が開催されると知ったのは、たぶん春頃だったんじゃなかろうか。
夏に大阪、秋に東京、年が明けて名古屋と3都市で開催される。
東京は東京都美術館で、事前予約が必要なため、ちょっと億劫になっていた。
東京都美術館は行き慣れている美術館の一つだが、企画展は入口がいつもと違う。
地下からずっと左の奥に行って、恐らく入口の下を通って、入口右側の建物の方なのだと思う。
入口から大きな彫刻に圧倒される。
そしてコントラストの強い絵画。
繰り返されるモチーフと、様々な表現に形を変えた作品に迎えられる。
いや、迎えられるなんていう生易しいものではなくて、強烈な表現が立ちはだかっていて、そこに飛び込んで非日常を体験する、というようなものだと思う。
会場は撮影可なのでスマホで写真に収めている人が多かったが、そんなことしないで、いろんな角度や距離から眺めてみたいと思った。
どんな色を使っているのか、どんな速度で塗っているのか、モチーフのバランスはどうなのか、何度描き直されているのか、配色のバランスはどうなのか、作品と会話するように眺めてみる。
抽象的でもありながら、具象的でもある岡本太郎の作品は、これは顔だなとか、これは機械だな、といった風に、分かるとか分からないとかではなくて、これを見てどう思うのかを聞かれているんじゃないかと思う。
最初のフロアを出ると、作品制作風景に岡本太郎自身の言葉が重ねられたビデオが流れていた。

エスカレーターで上がって、次のフロアからは、年代順の展示となる。
パリへ留学していた頃の作品や、最近、パリのごみの中から発見された3作品、シュルレアリスム的な「傷ましき腕」など、自分の表現を探している頃の作品が並ぶ。
「傷ましき腕」は川崎の岡本太郎美術館で、以前も観たはずだが、改めて赤の鮮やかさに驚いた。

次は前衛芸術家として、活動を始めた頃の作品。
まだ、モチーフとテーマが具体的であり、立体派的な表現なのではないかと思った。
この辺りで気になったのは、第二次世界大戦に従軍していた際の眠る兵士のデッサンと「夜」である。
デッサンは、簡潔な線と線を重ねている影の部分とが巧みで、質感のようなものが伝わってくる。
「夜」は全体的にブルーグレーの色調で、木のようなものの間に立つ女の人が後ろ手にナイフを隠し持ちながら、骸骨のようなものと対峙している。
解説によると、ジョルジュ・バタイユの秘密結社「アセファル」のサンジェルマンの森での儀式を仄めかしているとの指摘もあるらしい。
岡本太郎はパリ留学中に、ジョルジュ・バタイユ、ミシェル・レリス、ピエール・クロソウスキーらのアセファル、聖社会学グループにも関わっていて、神秘的なるものを復活させることでの社会変革を目論んでいた思想の流れを含んでいると知ってから、作品の見え方が変わった。
この「夜」という作品は、花田清輝らの「夜の会」の由来となった作品とのこと。

次は岡本太郎による再発見がテーマになっていて、縄文式土器や日本や世界の写真が展示されている。
天井からつるされたスクリーンに写真がスライド的に次々と映し出されている。
縄文式土器のディテール、徳島の阿波踊り、秋田のなまはげ、岩手の鹿踊り、青森の恐山、和歌山の那智火祭り、沖縄のイザイホー、韓国、メキシコ。
岡本太郎による写真という表現は、何が写っているかではなくて、何を見ているか、なのだというのが良く分かる。
立ち止まって全部観てしまった。
そして、縄文式土器の文様の中に呪術的なるものを再発見し、日本各地の風景の中に微かに残っている神秘的なものや陶酔の欠片のようなものを見たのだと思う。
「沖縄文化論」「今日の芸術」「日本の伝統」といった著作も残している。
表現の根源に立ち戻って、作品にもフィードバックさせていくのが分かる。

そして、広告芸術とでもいうのか、数々の壁画やノベルティグッズ、街中にあるオブジェ、アロハシャツやネクタイなどが展示されている。
そしてマクセルのCMもここで見ることができるし、顔のグラスも展示されていた。
ネクタイは今見てもデザイン的にとても良いと思った。

「太陽の塔」とメキシコで発見された壁画「明日の神話」の下絵やドローイングも、面白い。
大胆な線や色で感覚に訴えかけてくる作品なので、直観的に作られているかというとそうでは無く、多くの下絵やデッサンを基にイメージを固めていく過程の片鱗が垣間見える。

最晩年の作品まで辿り着く頃には、どことない高揚感と微かに疲労していた。
やはり作品の持つパワーに圧倒されたようにも思う。
それは、岡本太郎が生涯を通じて作品へかけているエネルギーであり、表現をすることで見ている者の存在の根源を揺さぶるものがあるのだと思った。
展示スペースの最後にはグッズ販売コーナーがあるけれど、どれも欲しくなりそうだったので、図録だけ購入した。
太陽の塔フィギュアも欲しかったが、たぶん川崎の岡本太郎美術館で見た気がしたので、今回は見送った。
会場を出てエスカレーターで下っていくと太陽の塔の見送りを受けた。
東京展は東京都美術館にて12月28日まで。

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