内藤礼「生まれておいで、生きておいで」

現代アートについて何か語れるほどの知識も見識も無いのだけれど、たまには観に行ってみようかという気になる。
内藤礼の「生まれておいで、生きておいで」は年初ぐらいから予告を目にしていて、SNSなどでフォローしている方の何人かが言及していたので、ちょっと気になっていた。
でも、できれば何かのついでではなくて、それだけのために時間を取って観たいと思っているうちに、観覧予約できる日程が最終日だけになってしまっていた。
何となくなるべくフラットに近い状態で観ようと、ちょっと早めに着いて、東洋館のデッキでぼんやりしたり、庭園をぶらぶらして本を読んだりして時間を潰して、いよいよ予約時間になった。
東京国立博物館の会場は3つあって、平成館の企画展示室、次が本館特別5室、最後が本館1階ラウンジとなっている。
平成館は門を入って、左奥の方にある。
列に並んで2~3名づつ会場に入れる仕組みである。
薄暗い会場の中には、天井からつるされた毛糸の玉のようなもの、風船のようなもの、展示ケースの中にある土器のかけらのようなもの、鏡、白い球体、石、木の枝、そういったものが展示されている。
観覧者が歩くと空気が揺れて、天井から下がっている毛糸の玉のようなものや風船がゆらゆら揺れる。
作品リストの文字も薄暗くて読めない、いったん出口近くで確認して戻ったりした。
面白いのだけれど、ちょっと掴みどころが無いというか、ピンとこない。
考えて理解するのではなくて、感覚で理解するしかない。
渡り廊下のような通路を通って、本館特別5室へと向かう。
こちらは本館の1階中央にあって、いつもの常設展では使っていない部屋である。
こちらも入場制限があって、列に並んで待つ。
やがて通されると、吹き抜けになった大広間のようなスペースに、点在している展示ケースと壁に貼られた何か、天井からつり下がっている透明な球体、屹立している棒、何人かが座っている低い舞台ような所などがある。
先ほどの展示と打って変わって、四方から光が差し込んでいる。
観覧者は作品の間を歩いたり、眺めたり、座ったりしている。
先ほどの展示と光の対比があるから、何かわかりそうな気がしてくる。
展示ケースの中には、土器の動物、動物の骨、子供の足跡のついた土器の出来損ない、毛糸、木の棒のようなもの、石そういったものがある。
壁に貼られているものは絵のようでもあり、絵の具の染みがついてしまった紙のようでもある。
何となく分かったような分からないまま、第3会場の1階ラウンジへと向かう。
そこは、展示室と展示室の間にある庭園に面した(たぶん過去には庭園に出れたのではないか?)展示室でも廊下でも無いところである。
中央に、水の入ったガラス瓶が置いてあって、庭園からの光で眺める。
ソファも展示の一部なのだけれど、一般の方も座っていたり、展示との境目があいまいになってくる。
作品リストによると壁に展示があるようだと探していると、直径1センチほどの鏡が張り付けられている。
ここまで周ると何となく分かって、もう一回観たくなった。
もう一回観てこう思った。
たぶん、この展示は、生の段階を表していて、第1会場の薄暗い空間は生まれる前のあわい時間で、第2会場は生まれてから外の世界の認識となっている。
四方から入る光の中で、それぞれの展示は出会うモノであり、光の明るさや影の向きで様々に見える。
壁に貼られた紙は、風景を風景として認識する過程を表している。
色に意味を見出して、それが海辺の風景じゃないか、森の風景じゃないか、と認識して分類する前の光のあわいを表しているのではないだろうか。
第1会場が静寂で、第二会場は喧騒と歓喜のような空間だろう。
また第2会場の展示は、少しづつ対称性を外すように配置されている。
そして第3室の水の入ったガラス瓶は、庭園からの光を通して観たり、遮って観たり、横から眺めたり、空気が揺れて水面が微かに波立ったり、それは観ている「私」という存在を映すモノなのではないだろうか。

せっかくだからと、銀座エルメスのフォーラム会場にも行ってみた。
こちらは事前予約不要、しかも入場無料である。
何となく自分なりの見方ができたような気がするので、ちょっとは気楽に観れるのだけれど、銀座のエルメスに行ったことが無い。
縁もゆかりも無いから、今回の展示が無ければ、一生来なかった場所かもしれない。
銀座メゾンエルメスというガラスが特徴的な建物だった。
案内されて8回までエレベーターで上がる。
展示内容は同じように、天井から吊るされている毛糸の玉のようなもの、風船のようなもの、鏡などに加えて、こちらにはくしゃくしゃにされたファッション雑誌のページや、繋ぎ合わされた毛糸が天井からたわんでいたり、小さい木製の人形がいたりする。
特徴的なガラスの駅面からの光が、国立博物館よりもダイナミックに変化して、作品の表情がころころ変わる。
また空調が強いのか、毛糸の玉のようなものが、博物館より大きく揺れている。
銀座の真ん中のビルの中のという事もあり、国立博物館の第2会場よりも賑やかな展示であり、揺れる毛玉が時間の推移を感じさせると思った。

などと考えたり感じたりしながら、特別な時間を過ごした、という満足感はあった。
目録は買うかどうかは、ちょっと考えている。
というのも、今回のようなインスタレーションはその場で五感を使うことに意味があるので、たぶん目録で観ても違和感があるのではないかと考えている。
チケットと同じく、オンライン購入可能なので、もうしばらく悩んでみよう。

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